【3】墨子の木の鳶

 中国の諸子百家の一人、法家に属する韓非子の著作の中に「墨子が木の鳶を作った話」があります。この話、あくアク流の考えに通じるものがありますので、今回はこれをご紹介します。

■「韓非子 外儲説左上」より

 墨子、木鳶(ぼくえん)を為(つく)り、三年にして成り、蜚(と)ぶこと一日にして敗(やぶ)る。
 [墨子為木鳶、三年而成、蜚一日而敗]
 弟子曰わく、先生の巧、能(よ)く木鳶をして飛ばしむるに至ると。
 [弟子曰、先生之巧、至能使木鳶飛]
 墨子曰わく、車輗(しゃげい)を為る者の巧みなるに如(し)かざるなり。
 [墨子曰、不如為車輗者巧也]
 咫尺(しせき)の木を用い、一朝の事を費やさずして、三十石の任を引く。
 [用咫尺之木、不費一朝之事、而引三十石之任]
 遠きを致すに力多く、歳数に久し。
 [至遠力多、久於歳数]
 今や我れ鳶を為るに、三年にして成り、蜚ぶこと一日にして敗ると。
 [今我為鳶、三年成、蜚一日而敗]
 恵子(けいし)これを聞きて曰わく、墨子は大巧なり。
 [恵子聞之曰、墨子大巧]
 輗を為るを巧とし、鳶を為るを拙とすと。
 [巧為輗、拙成鳶]

 墨子(ぼくし)(翟(てき))は木の鳶を作った。三年たってできあがったが、一日だけ飛んでこわれてしまった。
 弟子は言った、「先生は巧者(こうしゃ)だ。とうとう木の鳶を飛ばすまでになられた」。
 墨子は言った、「車のくびき止めを作る職人の巧者にはとても及ばない。一尺たらずの小さい木を使って、朝仕事にもならないほど簡単に仕上げるのに、それで三十石(せき)もの重い荷物を引っぱって、遠くまでも力は十分だし、長い年数にもたえられる。いまわたしは鳶を作ったが、三年もかかったうえに、一日飛んだだけでこわれてしまった」。
 恵子(けいし)(施)がそれを聞くとこう言った、「墨子はまことの巧者だ。くびき止めを作る者を[実用的な仕事だから]巧者だとして、鳶を作る方は[役にたたない仕事だから]不器用だとした」。

 いかがでしょうか。
 ここまで極端ではなくとも、私たち業務担当者からすれば「作る(又は直す)までに何か月もかかる」とか「作り終えた(又は直し終えた)ころには、業務の内容が変わるなどでそのままでは使えなくなっている」というような業務システムツールは、非常に厄介なものとなります。
 「簡単に作って、簡単に直せる、業務システムツール」が、あくアク流の目標の一つなのです。

引用・参考文献

 本稿の引用・参考文献は、次のものです。

  • 「韓非子」金谷治訳注 岩波書店