【6】第四章 三日目

 再び、X社の会議室。
 今回は、山上君と松本さんだけが、狭山さんが来るのを待っている。
 そして、いよいよ“業務システム・ツールの作成”に着手する二人のために、会議室の隅には五台のPCが設置されていた。

 と、そこへ、狭山さんが現れた。
「遅くなって申し訳ありません。では、さっそく始めましょう。今回は、まず、テーブル検討の“第二段階”として、テーブルのキーを検討してきます」
「あれ。キーの検討は、前回済んでいるんじゃないですか」
「山上さん。誤解されるのも無理はありません。前回検討したキーは“概念的なキー”でした。今回は、その“概念的なキー”の情報を元に、“実装的なキー”を検討していきます」
「“実装的”って。あぁ。“実装独立”の説明の時に『紙や画面やディスクといった“何らかの媒体”とくっついている状態』のことを、そうおっしゃっていましたね。とすると、今回は『“Accessのテーブル”が媒体』という訳ですか」
「松本さん、その通りです。前回までは『実装から独立させる』ことで、必要とされる管理対象やデータ項目の本質を明らかにしてきました。今回からは、この明らかになった本質を使用して、『実装に従属させる』ことをしていきます。但し、これからの実装化にあたっては、内山が考案した“方針”に沿って行っていきます。この“方針”、彼は“あくアク流”と呼んでいますので、以降もこの名を使わせて頂きます」
と言いながら、狭山さんはホワイトボードに向かった。

実装独立化と(その後の)実装従属化

「“あくアク流”で最初にやることは、概念データ構造図に表わされた管理対象を、Accessのテーブルに実装することです。皆さんは、前回の概念データ構造図をお持ちになっていますか」
「(二人そろって)ハイ」

「では、この概念データ構造図の“矢印の順序”から考えて、初めの方からテーブルに実装することを検討していきます」
「というと、“顧客法人”や“要員”ですね?」
「そうです。但し、皆さんには申し訳ないのですが、“要員”に関しては、総務部長の山本さんが検討されていて、キーとなる“要員ID”も“単なる連番”という結論が出ています。そこで、私たちは“顧客法人”のキーを検討しましょう」
「でも、狭山さん。概念データ構造図にある“顧客法人ID”がキーではいけないんですか」
「いえ、山上さん。ただ、これだけでは不十分です。講義の一日目を思いだして下さい。“顧客法人ID”という“器”には、どんな値を入れれば良いのでしょうか。これを定義することが重要なのです」
「そうか。よく“○○ID”とか“○○番号”っていうのがあるけれど、その中身を見ると“年月+連番”とかあって、すべてが要員IDの様に“単なる連番”って訳じゃないですものね」
「松本さん、良いところに気づきましたね。その通り。こういったことを検討し、定義することが、テーブル検討の第二段階なのです」

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